2003年8月、初めての入院・手術を体験した。手術について医師に説明を聞くと、このままでは2ヶ月に1度治療をしなくてはならないので、いずれしたほうが良いというし、内容は簡単で、1週間程で退院できるというものであった。ならば早くしてもらおうと決心しお願いをした。すると早速、心電図、血液検査、レントゲンを撮って帰ってくださいと言われ、「えっ?!簡単な手術と言ったのに・・・」と微かな不安が頭の中を過ぎった。とりあえず、検査をして、その日は帰宅した。
手術前日、入院となる。荷物も殆ど無しの状態で気楽に入院したが、その夜からは絶飲食ということで何も食べることができなくなった。一体どんな手術なのだろうか。
次の朝、2人の看護師さんに押さえつけられ、麻酔を打たれる。必死になって逃げようとするが、だんだん身体が痺れ動けなくなる。うう・・・を声が出る。という所で看護師さんに起こされ、「検温しますよ。」と言われる。夢の話をすると「麻酔はまだ早いですよ」と笑われてしまった。昼前に、浣腸・注射をされ少し動きにくくなってきた。そして、点滴も始まった。腕に管が付き自由に動き回ることができなくなった。昼過ぎベッドの横に手術室まで運ばれる寝台が並べられた。そして、手術用の服に着替えさせてもらい寝台に移された。病室から廊下、エレベーターで一階におり、廊下を通っていった。天井を見ながら運ばれ、時々廊下にいた人には何事かとちらっと見られた。
手術室にはいるとすぐに手術台に移された。TVで見たことのある大きな照明が視界に入ってきた。周囲を見ると看護師さんたちが慌ただしく動いている。準備万端で待っていてくれるのではないのか?急に不安が増してきた。でも、もう遅い。まな板の鯉である。それから服を脱がされ全裸の上にバスタオルが1枚掛けられた。ところが、予定時刻になっても執刀医の先生が来ない。「連絡はしたか」とか「呼びに行こうか」という会話が聞こえる。もしかして先生が来ないのか?この状態でどうするのだ!!ますます不安は募っていった。
暫くして執刀医の先生が来られ、いよいよ始まった。腰からの麻酔であると聞いていたが、いざするとなると怖いもので鼓動が聞こえてきた。横に向きくの字に身体を曲げ看護師さんに押さえられる。(夢の中と同じ状態だ!)腰を消毒され腰椎辺りを手で探り針を打つ位置を探している。失敗したら大変なことになるぞと思ったがもう手遅れである。「ちょっと痛いですよ」と先生に言われる。腰椎に打つのは初めてである。どれほどの痛みか想像がつかない。相当痛いだろうな。もし痛みに耐えきれず声を上げたらどうしようか。恥ずかしいな。など頭の中で考えると緊張も頂点に達していった。「打ちます」と言われ全身に力が入った。針が刺された瞬間身体がピクッとして「うっ」と言う声が出た。看護師さんの押さえていた手に力が入る。「大丈夫ですか」か「大丈夫ですよ」と言われたようだが、こちらはそれどころではない。今のは局部麻酔のようで、また、針を打たれる。徐々に腰の辺りが暖かくなってきた。針が動かされ右足が突っ張る感じがした。まずいぞと思ったとき、先生に「どちらか足が突っ張りますか」と聞かれ、すぐに「右足が」という。針が動かされ突っ張ることはなくなった。手術よりもこの腰椎からの麻酔のほうが危ないのではないかと思った。暖かさがだんだん広がり効いてきたようである。腹部にアルコールのようなものを付け冷たさを感じるかと尋ねられるが全く感じなくなってきた。両手を広げ、右腕に血圧計、身体に心電図計、左手にも電極が付けられ、それぞれ腕は縛り付けられた。逃げ出さないため?・・・
切開部のみ残し後の部分は隠される。丹念に消毒され「始めます」と言われ、バチバチと音がしてなにやら人の焼ける臭いがしてきた。金属のメスではなくレーザーメスである。手術=金属メスの考えは古かった。暫くして換気装置が働き臭いもなくなった。何やらされているが分からない。計器に目を向けると心拍90台、血圧160台と緊張している。痛みがないので任せるしかないと腹を括った。(既に切開されているのでもう遅いのだが・・・)そのうちぼうっとしてきた。心拍50台、血圧80台であった。時々、先生が「大丈夫ですか」と聞いてくるが、返事をするのも物憂い感じになってきた。どのぐらい時間がたったのか「縫合します」と言われ何針か縫われ、「手術は無事終了しました」と告げられた。約1時間で予定通りであった。
ところが、麻酔が切れだしたのか急に寒気に襲われガタガタ震えてきた。服を着せてもらい点滴の着いたまま病室に運ばれた。看護師さんが電気毛布を持ってきてくれたが寒気は治まらない。震えながら知らない内に眠っていた。その夜も絶食だったが食欲は全くなかった。
次の朝、38度以上の発熱のため座薬を入れた。そして、看護師さんに氷枕を持ってきてもらった。氷枕がこれほど気持ちいいものとは知らなかった。次の日も38℃以上になり座薬を入れた。3,4日でやっと平熱になった。が、その後の回診のとき縫合部を見て中に膿が溜まっているかもしれないと言われドキッとした。どうなるのか尋ねると「また開いて出せばよい」と言われガーンとショックを受けてしまった。「そんなに簡単に言われても、もう痛い思いをするのはごめんだ!! 」と心の中で叫んだ。ドレーンが1日早く抜けてしまったからだろうか。
一週間後、抜糸をした。膿は溜まっていなかったが、どうも縫合部の一部が上手く着いていないようであった。でも、3日後には退院した。自宅で消毒とガーゼ交換をしながら一週間後検査に行く。やはり着いていないようで、もう一週間様子を見て再び検査に行く。「ダメなので傷口を削り再縫合手術をしましょう」と言われ同意した。
手術日、今日は手術室に自分で歩いて入った。中は見覚えのある物ばかりであった。手術台の上に上がり前回と同様、両腕に計器が付けられ腕は縛られ固定された。「今日は局部麻酔なので少し痛いですよ」と言われ、歯を食いしばり一本目、何とか我慢することができたが、とても痛かった。3,4本打たれ傷口は麻痺してきた。痛みもなく再縫合手術は無事終了した。約30分間であった。
1週間後抜糸に行った。今度こそうまくいっているだろうと思い抜糸後先生に話を聞くと「まだ少し傷口が凹んでいるが、大丈夫でしょう」と言われた。かなり不安であったが先生の言葉を信じて帰った。その後、順調に傷口は治っていった。軽い気持ちで手術を受けたが、とても恐ろしい夏の体験であった。