36歳の少年の大型自動二輪車限定解除奮闘記
 1995年、ニュースによると何と自動二輪車の大型免許が来年から公認教習所へ行けば誰でもとることができるようになるとのこと。えっ?!何てことなんだ!!思い起こせば16歳の時。「来年から自動二輪車の免許が小型中型大型の3段階に分けられるぞ。今のうちに大型を取りに行こう」と友達に誘われた。このころは小型と大型の2種類で友人も私も小型しか持っていなかった。小型から大型を取得するのは審査を受けるだけで比較的簡単であった。しかも、大型の審査に使うオートバイは350ccで、合格すればどんなに大きなオートバイでも乗れるのであった。しかし、私はたった1日学校を休む勇気がなかった(真面目な高校生だったと思う)ため、その誘いを断ってしまった。友達はというと1日休んで大型免許を取得したのだった。これが後悔の始まりであった。後悔先に立たず、先に立つのは杖ばかりとは昔の人はよく言ったものである。

 高校を卒業してすぐに大型の審査を受けに運転免許試験場へ行った。しかし、3段階になってからは、中型は350cc、大型は750ccのオートバイを使うようになり、大型は予備審査(倒れたオートバイを起こす、8の字に押して歩く、メインスタンドを立てる)も加わったのだ。早速大型の予備審査を受けた。オートバイを起こす、8の字に押して歩くまでは何とかできたが、メインスタンドを立てることができなかった。試験官に「諦めて中型にしなさい」と言われ素直な私は中型の審査を受けた。審査中、悔しいのでコーナーで思いっきり倒したらスタンドが地面に当たり火花がでてしまった。まずいかなと思ったが、試験官にあまり倒さないようにと言われただけで合格した。その後何度か大型免許の審査にトライしたが合格率数パーセントということで取得することができなかった。仕事も忙しくなりオートバイに乗ることもなくなり、大型自動二輪車の免許のことは頭から消えてしまった。

 そんなときにこのニュースである。よし、もう一度トライしてみよう。公認教習所で誰でも取れるようになる前にあえて難しい審査を受けてみようと思った。年齢はいつしか36歳になっていたが、気持ちは16歳の少年のままであった。今度は成功法でいこうと思い、大型自動二輪の教習をしている非公認教習所を訪ねていった。ちょっとドキドキしながら36歳ですが大型自動二輪の練習をしたいと伝えると、ちょっと呆れたような顔で「今まで35歳を過ぎてオートバイの免許を取ろうと来た人はいないよ。30歳の人が一人いたかな。」と言われてしまった。でも、取る自信はあった。昔の血が騒ぎ始めたのか・・・オートバイを見るとそこにはヤマハFZX750があった。なんだか小さく感じた。昔は大きく感じていた750ccのオートバイなのに。それから12〜3時間の練習が始まった。

 最初の頃は緊張していたためかあまりスピードも出せずにいたが、数時間乗っているとちょっとスラロームやs字では倒しすぎてしまい、教官に「あなたの運転は危ない」と言われてしまった。反省反省・・・そのかわり急制動では十分スピードが出ていてよろしいと誉められた。その中で一番難しかったのが一本橋であった。15mを10秒以上かけて走行する。単純に考えると1mを1秒で行けば15秒はかかるのだがそう簡単にはいかない。そこで教えてもらったテクニック。倒れそうになったら同じ方向へ体を傾けること。これが不思議とそうすることで元に戻り、バランスが保たれるのである。もう一つ、オートバイは曲がりたい方向と反対にハンドルを切る(逆ハンではない)ことであった。これまた、本当にそうなるからビックリであった。

 8時間程乗った頃、そろそろ審査を受けに行ってもいいと言ってくれないかなと思ったが一向にそんな気配はなかった。そのかわり、なぜか毎時間、8の字を超低速で回るようにと言われた。8の字を回るが膨らんでしまうので教官がこうするんだよと見本を見せてくれた。なんと、ハンドルをいっぱい切ったままでいつまでも回っているではないか。おまけに途中で止まって話をしてくる。(もちろんバランスを取った状態で)それを見て自分のテクニックの未熟さを認め、また8の字の練習を続けた。
 そして、13時間経ったとき行ってみるかと言われた。忘れもしない8月31日。当日は小雨。試験場へ着くと、まず、コースを歩いて覚える。これなら何とかなると思いカッパを着ていざスタート。順調にコースを回って行き、やがて一本橋。一旦止まってゆっくりスタートする。おおお・・・何とバランスを崩してしまい落ちてしまった。すかさずマイクで「はい、スタート地点へ戻ってください。」第1回目不合格。

 その後、2時間一本橋の練習をみっちりとした。15秒以上で何度でも渡ることができるまでになった。9月4日(仕事は休んだ)、第2回目の挑戦。この日はとてもよい天気であった。スタートして順調に回って行き、あの一本橋の所へ来た。ゆっくり深呼吸を。そして、スタート。橋に上がる。軽く10秒以上かけて通過することができた。その後のコースは難なく回ることができた。この日は、同じ教習所へ通っていた21歳の青年と一緒であった。彼もコースを全部回ることができていた。6〜7人審査を受けたが全コース回ることができたのは私たち二人だけであった。合格発表の場所へ行き、青年と二人でドキドキしながら電光掲示板を見つめていた。すると、何と二人の番号が点灯。互いに握手をして喜び合った。その後、試験場の警察官から「この免許は大事にしなさいよ。」と言われ限定解除の印のある免許証を渡された。今日の喜びは決して忘れないぞ!そして、この先、交通違反は絶対にしないぞ!と36歳の少年は固く誓った。