親日派のための弁明

 以前「親日派のための弁明」草思社(キム・ワンソプ著)という本に出会い、その視点の新鮮さに驚かされた。「親日派のための弁明」のこの著者は、以前は日本が大嫌いで、近くで日本語を話している人がいるだけで、気分が悪くなっていたそうです。ところが、韓国を離れオーストラリアなどでの生活の中でいろんな人と意見交換しているうちに、しだいにその見方が変わってきたということです。
冷静に、客観的に歴史を見つめると「日本の朝鮮支配は、結果的に良かった」という意見に変わってきたと書かれています。マレーシアのマハティール前首相の見方と同じように、日本がアジアに及ぼした恩恵部分を見るようになったという事のようです。

この本で、びっくりしたのが、次の1節です。
「敗戦によって日本帝国は五つの地域に分断、占領されたのであり、朝鮮が南北に分断されたのではない。戦勝国にとって朝鮮半島は日本の領土のひとつにすぎず、かれらは日本帝国を韓国、北朝鮮、台湾、サハリン、日本の五つに分離し、それぞれ占領したのである」

この著者のキムさんは、アメリカ合衆国が領土を拡大してきた歴史とも対比させながら、唯一日本が悪かったとすれば、それは、戦争に負けたという事だとも述べています。
著者の過去における反日感情を見直した結果、見い出した結論のようです。
私の中には、このような見方は全く有りませんでした。
私自身は、この事については思考停止状態だった事を認めなければならないでしょう。

今、現時点で、なぜ、中国や朝鮮半島の一部に強い反日感情を抱いている人達が多いのかを考えてみると、日本の統治時代の圧迫や敗戦で苦渋をなめさせられたということだけではないでしょう。
台湾は、統治機関も長く日本の力も相当入れられてその恩恵を享受する事もできていたので元々の台湾在住の人達は、自分自身を日本人だと認識していた人達も多く親日の人も多いようです。
韓国での戦後の反日教育はキム・ワンソプ氏の言うように半端ではないようです。
みんな日本人は悪かったと刷り込まれています。
条件反射的に利害が対立するようなケースが出るとパブロフの犬の如く反応してしまうようです。

そのような教育が成されている原因は、この著者の意見を待つまでもなく、戦後の東西冷戦が背景に有り、朝鮮半島の38度線でソ連側とアメリカ側の対決があったのが原因と考えられます。
朝鮮半島が、南北に分かれて争っただけでなく、地球上を2分する戦いだったわけです。国内国外を問わずいろんなところで争いが有りました。その後、ベトナムでも有りました。
利害の対立、覇権争いが、思想(宗教)戦を帯びて深刻な状況でした。当然、悪口の応酬です。

同時に中国、北朝鮮、韓国共に国内をまとめる為にも、政治的にも、不満のはけ口を日本の統治時代が原因だとして内部固めをしてきた事も有るのでしょう。
また、アメリカとソ連の戦略でもあったのかもしれません。
二度と日本が中心となって有色人種達が結束し台頭しない為にとられた、戦略的反日教育だったのかもしれません。その背景には、進化論が伏線としてあるでしょう。
ダーウィンの進化論を元に考えれば、有色人種は、白人と類人猿の途中にある種族です。
昔、ヨーロッパの植民地時代、中国の公園の入り口に「犬とシナ人、入るべからず」といった看板が立てられていたこともあるそうです。黒人を奴隷として牛や馬のように売り買いしていた時代は、それほど昔のことではありません。日露戦争でその有色人種がロシアに勝った。白人をうち負かしたという事は、驚天動地の事だったのでしょう。そのような人種差別が当たり前の時代でした。

そして、日本は、敗戦国であり戦後は独立国の状況ではありませんでした。
東京裁判でも、戦勝国による一方的な判決、日本悪者説を受け入れざるをえませんでした。
多くの人達が、処刑されたのです。片側の一方的な正義によって責任転嫁され処断されました。まともな反論も出来ず、その後の東西冷戦の中でそれぞれの思惑が交錯し、日本悪人説の暗示が繰り返されてきたのでしょう。

また、「敗戦利得者」という存在が日本の歴史を歪曲してきた背景も有ります。
彼等が、自分たちの正当性を主張し、それまでの日本を否定してきた事も原因の一つでしょう。
戦中戦前を通じ、その当時の政権、軍部に抑圧されて来た人達が、GHQの力も借りて、それまでの日本の中心になっていたような人達を退けました。
「公職追放」という事があったそうです。岡崎嘉平太さん(元全日空社長・日中国交回復の功労者)の手記を読んでみると、その当時のいわれのない差別で多くの優秀な人達が苦しまれた様子が書かれてありました。まるで、中国で行われた「文化大革命」のようです。その公職追放によってそれまでの立場を逆転させた人達の力によっても、日本悪者論が展開されたようです。私自身も、高校卒業の頃は詳しいことを知らないにもかかわらず、日本悪者論を信じていたという事実があります。
当然、朝鮮半島の人達、中国の人達も、その指導者達もそのような暗示にかかったままでいるのかもしれません。もちろん、日本人もその暗示にかけられたままの人達が今もなお多く存在しています。

思考停止した状態で日本悪人説の暗示を受け入れている。
その暗示にかかったままの方が、あたかも知識人であるかのような錯覚を起こしているところが有ります。具体的に、どのような暗示にかかっているかというと、開戦に至る背景とかいろいろあるでしょうが、一番問題になるのが、先の日本がしてきた、国家総動員法での徴兵や徴用、学徒動員など、その翻訳が違ったものになっていることです。
ゆがめられた形で認識されています。。
日本が、国家レベルで拉致や強制連行をしたり、朝鮮半島の女性たちを性奴隷として扱っていたように間違って認識されているはずです。国内でも浅薄な知識人気取りの人達は、そのように思い込んでいるでしょう。そのような人達には、是非、キム・ワンソプさんに学んで欲しい。本当の知性を求めるべきです。

北朝鮮から拉致された5人が帰ってきた時、テレビのインタビュー番組で拉致問題に関する北朝鮮の軍人の言葉が紹介されていました。
「日本は、拉致問題の数人の事を言っているようだけれど、日本統治時代の6〇〇万人の強制連行の事を棚上げにしているじゃないか」といったような内容でした。
その報道を聞いた時に、私は、一瞬とまどいました。そのような見方も有るのなら、仕方がない面もあるのかな?と一瞬ですが思わされてしまったのです。
踏みとどまって考えることでその認識の誤りに気がつきましたが、マスメディアの力にはビックリしました。目にしたこと、耳にしたことを、無前提に放置した時の恐ろしさを感じました。暗示を受けることの恐ろしさを、誰かのせいでなく、単純に思い込まされやすいという人間の性質に気がついたのです。この報道の内容をある人に話したら、「それは本当の事だしな!」という言葉が返ってきたのには、やはり、おどろかされました。

案外、政治家や知識人と言われるような人の中にも、似たような認識レベルの人が多いのではないかと思います。「徴兵、徴用」と「拉致、強制連行」とは、言葉だけでなく、その背景も意味するところも違います。陽の部分、目に見えている部分は同じように見えても陰の部分に違いが有ります。現実はどうだったのかと考えてみると、「親日派のための弁明」の著者の意見にもあるように、当時は朝鮮半島は日本そのものだったのです。日本は、西洋列強のように植民地として略奪したのではなく日本本土以上に資本を投下してその地域の基礎的な力を上げていこうと様々なインフラ整備もしてきた事実が有ります。朝鮮半島も日本の領土であり、そこに住む人々も日本人だったのです。もちろん、朝鮮併合に関しては、当地の人たちだけでなく、日本国本土内にも賛否両論あったようです。暗殺された伊藤博文も反対意見だったけれどソ連の南下の脅威も有りそうせざるを得なかった事情が有るようです。

強制連行とは何なのかと考えてみたら、基本的には、赤紙、要するに徴兵されたのです。
日本本土の人たちと同じように、兵隊にとられていったのです。
国家総動員令の元、学徒動員、徴兵、徴用などで全国民をあげて戦争に集中せざるを得なかった時代です。今と違って、個人の自由が抑圧された時代でした。
そして、負け戦ですから、当然の如く過酷な事態が起こります。
考えてみれば拉致問題といっしょに扱うような問題とは違うのですが、被害妄想的な見方をすれば、先にあげたような考えになってしまうようです。