前述した「人類最大の危機」であるが、後に聞いたエピソード。

ある日、後輩の彼はやはりデートの最中にも人類最大の危機、人間の誇りと尊厳を賭けた由々しき問題に直面していた。
滴り落ちる脂汗、眉間には深い皺がより、鬼気迫るオーラが車内に漂っている。

しかし、当時その事情を知らなかった彼女のほうは
(なにか物凄く凛々しい雰囲気で、話しかけちゃいけないかんじ。なんかかっこいいかも…)
と、思っていたらしい。今ではとんだ笑い話である。勘違いもここまでくればかえって美談のようである。


こういう話をトラックドライバーを生業にしている友人に話したところ、非常に共感できるとのことであった。

確かにそうだろう。
一般道ならまだしも、高速道路を使う長距離トラッカーである人なんかだったらそれこそどこでも停車するわけにはいくまい。ひどい渋滞の時なんかもどうにもならないだろう。
まさに人類最大の危機である。

そんな時、一体彼らはどうその危機をしのぐのか。
やっちゃうのだ。
車内にはコンビニなんかのビニール袋がたいがいあるはずだ。そいつに放出しちゃうらしい。
無論、車内にその臭いは充満し、処理できない核廃棄物並みの危険なパックが発生するのだが、いたししかたあるまい。
その廃棄物をサイドミラーなどにブラブラさせつつ、何事もなかったかのように運行をつづけるのだそうだ。大変な仕事である。

彼の言うには、夜中の車道でどうしようもなくなって、そこで放出したなんてこともあったらしい。
やはりトラックドライバー、男の中の男の職業であるのかもしれぬ。ある意味潔いのだ。


著:戦車




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