随分前の話になるが、ブラックバス釣りにはまっていた時期があった。
ブラックバスを釣ると言う行為の善悪だのキャッチアンドリリースがどうだのはとりあえずこの際置いておくとして。


ある一級河川のほぼ最下流を俺と友人F・友人Oの3人で釣りをやろうということになった。
FとOはそれぞれゴムボートを所持していて、それを使って川釣りを楽しもうという魂胆である。
川で生息するブラックバスは池などで育つタイプと違って常に水流にさらされている為か泳力が強く引きも重いのが特徴で、非常に楽しい釣りが予想されるのである。
で、こちらの装備であるゴムボート。Fの舟艇は電動スクリューを装備した機動性の高さという部分で他を抜きん出た性能を誇るにくいやつだ。Oの舟艇は一般的な手漕ぎタイプである。

そこで、機動力の高いFの船でOの船を牽引してもらいながら広い川を釣りまくろうということになったのだ。やはりゆったりした川とはいえ、十分に強い流れもあるしその広さもかなりのものなのだ。手漕ぎで電動スクリューに追従するのも疲れるからね。


どんとそのビッグリバーへ漕ぎ出してみれば、やはりFの船に牽引してもらうのは楽チンなのである。ちなみに俺はOの船に乗せてもらって引っ張られている方だ。
その川は彼らのホームリバーとも言うべき川なので、あちらのポイントに投げてとか、こちらの杭をねらってとか詳しく教えてくれたり、岩場で甲羅干しをしている亀二匹を見て直列二亀頭だとか(フィクション)言ったりと楽しく過ごしたのだ。

んで、いい加減攻めるべきポイントも攻めたので移動しようと言うことになった。
Fの船とつながる牽引ロープが若干長いためコントロールが難しいということを学習した我々は、そのロープ距離を幾分か縮めて再び移動を始めようとしたとき、悲劇は起こった。

今でもまざまざとスローモーションで思い出すことが出来るその瞬間の光景。

ブバルルルという鈍い音と振動が水中から伝達されたその時、Oのゴムボートの牽引されている前部が急激にそのハリを失っていく。(あぁ、接近しすぎてペラでボートを切ってしまったようだ)という理解は瞬時に出来た。ほんのわずかな瞬間に(この10月の川のど真ん中で泳ぐ羽目になるとは)と思ったのを今でも覚えている。
しかし、のんきに構えていたのは俺だけであった。

はっと目を向けると既にOはじたばたしながらFの船に避難しているではないか!船長は船と運命を共にするんじゃないのか!?船長が一番に逃げてどうするんだ!!取り残された俺って!?
と、思ったのだがゴムボートってのはよくできていて、前室と後室に空気室が分かれていてどちらかにダメージが及んでも沈没しきらない構造になっていたのだ。

10月の冷たい川の水でパンツまでびしゃびしゃにしながら岸まで帰る道中のなんと面白かったことか。こんな愉快な体験はなかなかできるもんじゃないな、と思う俺であった。


#後に判明したが、Oは泳げないらしい。そんなんならなぜゴムボート買ったんだろう…。


著:戦車




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