今、蛍がどういうわけか人気である。
一時期、河川環境の悪化(生活雑排水や農薬などと思われる)でほとんど姿を消していた蛍が少しずつだが数を増やし、今では少し田舎へ行けばかなりの数の乱舞を見ることが出来るようになってきた。
見る側のマナーの向上によって無闇に捕獲しなくなったり、もちろん蛍そのものの野生の生命力の強さと言うのもその数を増やした一因だろうとは推測されるのだが、下水処理の向上や環境へのダメージが少ない農薬の開発や使用も大きく関わっているように思う。

しかしそれは野生種での話。
実際、各地方のいわゆる「蛍の名所」と名乗っている地区などは養殖でその生息数を増やしているようだ。
野生種でないから尊くないとか、原種と違うタイプを放す事の問題などはこの際置いておくとして、現実の環境にはありえない密集したその蛍の明滅を見ると非常に贅沢な気分になるのも事実なのである。

人間の勝手で箇所的に放流したり、町おこし村おこしの祭りなどのイベントに合わせて大量に放流したという事がその後の蛍の生息にどう関わってくるか、他の生物や環境にどういう影響があるのかは全く不明で、その辺りもう少し考えて行動するべきではないか。
そしてまたその放流した蛍をごっそり捕獲して売りさばく輩もいるとかいないとか。売るほうも売るほうだが買うほうも買うほうである。

それに関連した話で、地方で養殖した蛍を東京の商業施設へ送りその中に擬似的な河川周辺環境を作ってそこへ蛍を放して来客者を楽しませるというサービスを行っているところある。
何か全て間違っているのではないか?

月明かりも少ないある夜、梅雨の合間の川べりに蛍は適切な生息密度で飛び交い、見る側はそれを少し眺めて(もうすぐ夏だな)なんて思う。そしてこういう贅沢がある現在を思う…なんてのが蛍観賞だと思うのだ。
養殖して増やした蛍を照明を落としエアコンを効かせて雰囲気を出したビルの中で眺めたところで全てが虚構であり、命の無駄遣いではないのか。

こういう事で知名度を上げようとする地方やその蛍を眺めにやってくる客と、大量放流の蛍を捕獲して売りさばく売主と買い手。どこかダブって見えなくもないか?


蛍がみたけりゃ自分の足で川にやってこい。そのとき初めて本当の蛍が見えるはずなのだ。


著:戦車




戻る