切っても切れない間柄と言うヤツがある。
鴨と葱、トムとジェリー、コーヒーにブライトみたいなもんである。
しかしその親密な間柄にも一定の距離感が必要だ。付かず離れず、いい距離を保つ事は人間関係でも同じことが言えるだろう。
その適度な距離を越えた先にあるのは、悲しいかな、苦痛や別れしかない。だから我々はその距離を大切に守ろうとし、常に一定距離をチェックするのだ。


これはその一線を越えてしまった男の話。
ある後輩が友人連れでラーメン屋に行った。無論ラーメン屋なのでラーメンを注文。
友人と楽しく歓談する後輩の前にやがてあつあつのうまそうなラーメンが店員の手のによって運ばれてくる。
後輩は友人との会話に花が咲いているのか、テーブル上の胡椒を何気なくその手に取りつつ会話を進める。

ひねられ、開けられるキャップ。そしてラーメンの上に振り掛けるためにシェイク。
ここまではラーメン自体、胡椒のボトルを見なくても行われる、美しくかつ流れるようなスムーズモーションであった。

しかし胡椒を振り出すモーションを起こした時感じた微かな違和感に後輩はあつあつラーメンを見ずにはいられなかった。
そう、そこには先ほど噴火を終えたばかりのような小さな山となった胡椒がラーメン丼の中央に新たに存在していたのである。
小山を見て唖然とする後輩とその友人。凍りつく一瞬である。

手に握られている胡椒のボトルを見たとき、彼は全てを悟った。これはひねって開けるタイプじゃなく、トップのふただけを跳ね上げるタイプだと。


かくして、ラーメンと胡椒の蜜月は唐突に終わりを告げ、その後には苦痛が残る事となった。

その激辛ラーメンを後輩は泣く泣く完食したということであるが、もう何気なくふたをひねって開けると言うことはやらないだろう。
ボトルに入っていたのは胡椒だけではなく厄災が入っていたのだ。まさにパンドラの箱である。

底のほうに希望が残っているかどうかは定かではない。


著:戦車




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