香川県と言えば、うどんが有名である。
都市部へセルフうどん店が相次いで出店したり、うどんを扱った映画が出来たりとその勢いは弱まるどころかますます熱を帯びている。

そんなブームのせいもあり、隣県に住む俺も何年か前くらいから香川県へうどんを食べに行くなんて事を楽しんでいるのだ。


で、先日も地元へ帰郷した友人と瀬戸大橋を渡ってうどんを食べに行った。
うどん食べ歩きのテキストとも言うべき「恐るべきさぬきうどん」という本を参考にしながら各地のうどん店を巡るのだが、やはり有名店をまず狙おうと「田村」を目指す。

田村は綾川町にある非常に有名なうどん店だ。
しかし、残念ながら俺はそこののれんを一度たりともくぐったことがない。行列と路上駐車(うどんのお客が溢れてる)があまりにも酷くて接近できないのだ。
うどんの為に瀬戸内海を渡る事は厭わないのだが、店先で行列を作るのは我慢なら無い性分なのだ。えらそうに言うことじゃないか。うむむ。


行ってみると、やはり行列がすごかった。
時間の都合もあり、すばやく判断してこの店は今回も見送りとなった。残念である。(しかし駐車場が拡大されて路上駐車が緩和されていたのは良かったなぁ)


結果として出鼻をくじかれた事にはなったのだが、そこはぶらりうどんの旅。適当に次のターゲットを探すことにする。
せっかくだから初めての店に!と候補に挙がったのは、同じ町内にある「丸善」という店だ。

若干高松市内方向に迷って移動してしまい、時間のロスもあったがどうにか店舗を発見。
大きすぎない店と町並みに馴染んだ雰囲気はなかなか好感が持てる。それに駐車場に停まっている車のプレートが県内のものばかりだ。

入ってみると、やはりそこは地元(近所)のお客さんとおぼしき方々で席が程よく埋まっていた。こういう店は期待が持てる。
コの字型のカウンターは既にお客さんでいっぱいだが、壁際の小さい座敷席が唯一空いていた。そこへ陣取ることにする。
カウンターの向こうの壁に貼り付けられているメニューはどれもシンプルで安価。安心感がある。

ただ、こういう初めての店と言うのは注文システムが分からないのだ。
香川では店それぞれに流儀があるらしく、店のおばちゃんが注文を取りにきてくれるのもあれば、自己申告だったり、先払いだったりとバリエーションに富んでいる。

なので他のお客さんの動向をうかがう。あまりきょろきょろしてると旅行者だとばれてナメられてヘンなうどん出されるのも癪なので(ないない)適度に一般客を装う。

しばらくするとおばちゃんが普通に注文をとりに来た。気負ったこっちがアホみたいだ。
俺が頼んだのは冷やしうどんの小。同行者は釜揚げの小である。

まだ釜でゆでているので若干時間がかかるとのことで、店内のテレビで流れている夏の高校野球を眺める。島根の高校とどこかが試合をやっていた。



…余談だが、小というのはもちろんうどん玉の玉数の事だ。言葉のイメージでだまされてはいけないので注意が必要なのだが、これ、れっきとした一玉である。
大だと三玉。中はその中間の二玉らしい。しかし店によっては中という存在自体がメニューにないところもある。
おそらく「おっちゃん二玉な」と注文すればオーダーは通ると思われるのだが、シャイなキミや控えめな旅行者の俺にはなかなか言い出しづらいものだ。
無論、食べ歩きする場合に大とか中を頼むと自滅するのは言うまでもないだろう。



などと解説をしている間に、俺の背後側に座っていた地元民っぽいおばちゃんのうどんが届く。ひやしうどんの大のようだ。
再びテレビに目を向けるとどっちかのチームが凡プレーをしたようで、どこかから「あれじゃアカン」(香川弁は関西弁に良く似ている)と誰かがつぶやく声が聞こえた。

背後のおばちゃんのほうに目をやる。
すでにうどんは完食されていた。恐るべき速度である。本場の人はほとんどうどんを噛まないということらしいが、それを目撃するチャンスを逸した。


間もなく、注文したうどんがやってきた。
冷やしうどん小はガラスの器に張られた冷えた水にゆらりとその身を任せつつ登場。
ちょっとばかり細めの麺、透明感ある麺を見れば割合エッジも立っていて期待できる。
漬け出汁はご当地ではメジャーなイリコの風味が強い。若干甘めに仕上げられた醤油色の薄い出汁はなかなかしっかりした味だ。

早速いただく。適度な弾力感をもちつつどこか一線でぷつりと切れるうどんが心地よい。出汁ともマッチングもさすが!と言うべき出来だ。
こんなのが毎日食べられる香川の人は幸せだぞ〜。

夢中でかっこんでいると、遅れて友人の注文した釜揚げ小がやってきた。そっちもうまそうだが熱そうだ。食うのに手こずっている。
冷たいうどんなので早く食べ終えた俺は店内のお客さんを眺める。

常連と思われるおっちゃんおばちゃん、目の前のガソリンスタンドの人、それにブラックバスを釣る人っぽい若い衆もいる。(香川はブラックバス釣りでも有名である)
営業マン風の男が店に入ってきて店のおばちゃんに何か言っている。おばちゃんは「いつものね」と言っているのがこちらにも聞こえた。この人も常連らしい。
しかし、「えーと、ショウガは大丈夫だった?」「ネギはダメだっけ?」と営業マンに聞いている。これれでは「いつもの」の意味が無いではないか。

などと思っているうちに友人完食。
支払いを済ませた我々は次のターゲットを狙うため、店を後にするのであった。


香川うどんの旅 竜虎編に続く



著:戦車




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