前回までのあらすじ

うどんの聖地である香川で順調に食べ歩きを楽しむ一行。丸善、安藤うどんと手堅い店をチョイスするも、ついに冒険的新規開拓を目指す。
だがその店には倦怠感が漂い、すでにてんぷらはなくなっているという状態。しかも食べてみれば小学校給食で供されるうどんのテイストに酷似していた。
三玉で完食を目的としていた一行は最後の一杯をこれで終わらせるわけには行かないとラストチャンスに賭ける。
そのラストを飾るべき店はなんと営業不定、休業不定。不確実要素を多分に含んでいたのであった。



最後に選んだ店「三嶋」。
現在地からはそんなに遠くはないが、時間の猶予もおなかの猶予もない。その上営業しているかどうかすら分からない。
早速車を走らせ、目的地を目指す。国道438号を走り旧琴南町土器川にかかる落合橋を渡ってすぐだとガイドブックに掲載されている。地図も分かりやすい。
友人の愛車TOYOTAプリウスの正確無比なナビゲーションシステムのおかげで近辺までは何の造作もなく接近することは出来た。

だが肝心の店が発見できない。
複雑な場所ではないのだが、何か見落としているのだろうか。ナビの地図では行き過ぎているようなので少し戻って、これはという道に突入。
しかしこれは明らかなルートミスだった。走れば走るほど山の中へいってしまう。時間が無いのになんというミス。
だがここであきらめないのが男ってものだ。再び野生の勘でルート変更。いまさらながらもうちょっとナビに頼ったらどうかとも思うがこれでいいのだ。

で。
なんとこれがビンゴ。らしき建物を見つけ接近していくと中ではうどんをこねている人の姿がちらりと見える。おぉ、ちゃんと営業しているではないか。
駐車場には奈良プレートと大阪プレート。どっちもいい加減な停め方で迷惑だ。しょうがないのでもう少し先に行ってJAの駐車場に停めさせてもらい、歩いて店まで行く。

我々が歩いて店の前まで行った時には他のお客は少なかったものの、中を覗くと数人の職人さんがうどんを伸ばしたり切ったり茹でたりと熱気を帯びている様子が伺えた。
狭い店の前の路地を軽バンが入ってくる。どうやらこの製麺所の車らしい。配達から帰ってきたのだろうか。期待が持てる。

店の前でまごまごしているわけにも行かず、店内に入る。一体どこで注文したらいいのか、またメニューはどんなものがあるのかさっぱり分からない。まさに未体験ゾーンである。
そうこうしてると店のおねーさんが「熱いの?冷たいの?」と聞いてきた。どうやらサイズは小のみのようだ。思わず「熱いのを」と注文。

店内はあまり広くない倉庫のような土間のような場所で、その半分は職人さん達の作業スペースに割かれている。そしてもう半分には簡単なテーブルと席が設けられている。
我々はその席に座り、うどんが到着するのを待つ。テーブルの上にはザルいっぱいに盛られた生卵。醤油。刻んだネギもたっぷりある。どうやら熱いうどんに卵を投入して楽しむ「かまたま」が良いようだ。

やがておねーさんが持って来てくれたうどんは、期待を裏切らない出来であった。
透明感を帯びた麺。ぷりぷり感が見るだけで伝わってくる。そしてどんぶりまで十分に加熱されている。

すかさずザルから卵をひとつ取り、テーブルの角でそいつを割って湯気を吹き上げるうどんに落とし込む。醤油さしを2周ほどまわしかけ、ざっくりとネギを放り込む。そして軽く攪拌。
熱いうどんと丼のおかげでやや加熱された卵と醤油がほどよくうどんに絡む。見るからにうまそうだ。ほの黄色い卵と白いうどん、緑のネギがいいコントラストだ。

丼を持ち上げ、そいつをすする。

うまい。思わず笑みがこぼれる。今日のナンバーワンだ。
釜揚げ状態でありながらしっかりした腰のうどんは期待通りの出来で、周囲の透明な部分はつるりと官能的ですらある。そして卵、ネギとのマッチングがまたいい。醤油も塩辛いばかりでなく、マイルドなうまさがあるようだ。どこにもケチのつけようがないのだ。

うどんもさることながら、この店内のロケーションが印象的ではないか。
俺の横には大きな袋があり、その口からちらりと見えるのはもちろん原料の小麦粉。向こうでは職人さん達が働いている。仕事場の横でちょっとうどんを食べさせてもらっているというその風情が鮮烈な印象だ。

既に三玉を食べていたにもかかわらず、するりと胃に落ちていく極上うどん。あっというまに完食してしまった。
ふと気付くと、お客さんがかなり増えている。

そこで我々は早々に支払いを済ませ(これがまた安い!)店を後にしたのであった。大満足である。


…ラストに勝負に出た結果、三嶋という名店にたどり着くことが出来たのは幸運であった。
三軒目に行った店の存在も今となってはありがたい。あれがなければ三嶋に来ることはなかったのだ。人生万事塞翁が馬、である。



それにしても香川うどんの旅、奥が深い。
次回は開店・閉店時間の把握とルートの選択をしっかりやっていかねばならないと心に誓う我々であった。







著:戦車




戻る