随分以前の話。
俺がまだ学生だった頃の事だ。

当時、対戦格闘ゲームがゲームセンターでブームになっていた。
ご多分に漏れず俺もその渦中にはまり込み、友人達も同じくであった。

その友人の体験した話なのだが…


ある日の学校帰り、ゲームセンターに行った友人。
店に入った頃はどんよりと曇っていた空も、帰る夕刻の頃にはいつしか雨が降り始めていた。

店の外へ出た友人は自分の自転車を遠めに見てふと気づく。
サドルのところに何か白いものが被せてあるのだ。

丁度この雨天であるし、店員が気を利かせてサドルにビニール袋でも被せてくれたのかと自転車に近づく友人。

だが、彼は驚愕の事実を目の当たりにする。
それにぴったりと被せられていたのはビニール袋ではなく、女性物の下着、いわゆる「パンティ」であったのだ。
サドルの形状とパンティの形状が見事に合致し、あたかもそこに人体が存在するがごとくのインパクト。
それは被せたなどという生ぬるいものではなく、穿かせたというべき状態であった。



…ゲームセンターでは「クレーンゲーム」と呼ばれるジャンルの物がある。
大きな透明ケースの中に工事機械であるクレーンを模したものが据え付けてあり、底辺部分には円形のカプセルに入った景品が山と積まれている。
遊ぶ人はそれにコインを投入し、回数制でクレーンを操作してカプセルを取り出すというものである。
景品にはいろいろなものが入っていて、キャラクターのマスコットキーホルダーだったりライターだったりしたのだが、その中に何故か女性物の派手な下着シリーズって品もあったのだ。
女性物の下着。当時若い男性ばかりが出入りしていたゲームセンターに最も似つかわしくないと言えるアイテムである。
こういう物をついキャッチしてしまった客は処分に困り、備え付けられたカプセル回収箱へ中身と共に廃棄してしまうのが通例になっていた。



その困惑の対象でしかありえなかった下着に何者かが閃き、自転車のサドルに穿かせるという新たなテロを生み出した。
恐ろしい行為である。



そしてテロはテロの連鎖を生む。

以後、学校の自転車置き場に現れる名も無きテロリストの手によって繰り返されるテロ行為。
友人の誰よりも早く自転車置き場にたどり着き、自分の自転車の無事を確認する日々。

いつしかそれはエスカレートを続け、ついには訪問先の友人の部屋にこっそりパンティを隠したり、またその友人が留守ならドアノブにそれを引っ掛けて帰るなど悪逆非道の行いの数々には枚挙の暇が無いほどであった…。


だがその暗黒の日々も遂には「飽きた」という理由で幕は下ろされてしまい、しょーもない若気の至りと言うことで決着する。

しかし俺は忘れない。
もう目にすることは無いだろう、あの黒い自転車のサドルにぴったりフィットした派手目なパンティを。



著:戦車




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