ブルーチーズ、という食品がある。
あおかびを付着させて、それによって水分の減少とたんぱく質の熟成変化を促進させたまさにチーズの中の王様。キングオブチーズと言っても過言ではないというほどの高級食品である。(たぶん)


で、正月の話。
友人の部屋で酒盛りをやっていたのだが、そこに登場したつまみのひとつに、その王様とも言えるブルーチーズがあった。
銘柄は思い出せないのだが、まぁおそらくスーパーで購入した王様なので、しれているのだと思いたい。

ご存知のとおり、ブルーチーズってヤツはたんぱく質がこなれた匂いが強烈にある。好き嫌いが極めてはっきり分かれる食品である。
俺と一人の友人は比較的耐性があるので、なんなくそのうまみ部分に到達できるのだが、他の面々はどうも厳しいという。

そこで、手元にあった干し芋に塗りつけてみた。バゲットの薄切りにブルーチーズをひねりつけて食うという発想と同じである。
俺と耐性のある友人はなんなくクリア。むしろうまみは損なわず、いやな匂いは回避できると感じたのだが、あとのメンバーの表情は渋い。


我々は最終的手段として、手元にあった生ハムを用いることにした。
生ハムといえば、高級食材のひとつとして挙げられるおつまみ界のクイーンとでも言うべき存在であろう。
各国に有名な生ハムが控えてはいるものの、やはりスーパーで購入したものであるため、ある程度の妥協は否めないのだ。許せ。

そのクイーンである生ハムとキングであるブルーチーズの新たなる融合。
それはまさに新年にふさわしい門出として祝うべき素晴らしいコンビネーションになるに違いない。

俺の頭の中には(干し芋を墓地へ送り、場の生ハムと手札のブルーチーズを特殊融合!これで新たなる料理を召還する!!)と、なぜか週刊少年ジャンプの遊戯王の一シーンが連想されたがそれは口には出さないのだ。


早速広げた薄切り生ハムに、適度な大きさにカッティングしたブルーチーズを載せ、美しくローリング。
レモンでも絞ればまたいいのかもしれんが酔っ払いの発案で手近なものをまぜこぜしただけなのでそんな気の利いたものは無論存在しないのである。


で。
俺らが食う前に、耐性のない友人に食わせてみた。それほどの絶対的美味への自信だったのだ。

しかし「おぇぇぇ…」という情けない悲鳴とともにトイレへ駆け込む友人。
一体どうしたと言うのだ。確実にうまいはずなのに。

「どうした?うまくないのか?」とたずねる俺に「食ってみろ!」という友人。

おかしい、融合合体して完成したのはキング+クイーンでプリンスかプリンセスのはずなのだ。
我が舌で試してくれるわっ!!と、意気込んで食べてみた。


…まず、ヤツを口の中に投入すると、どうしようも回避しようの無いたんぱく質の分解する臭いが鼻腔を直撃する。
次にヤツに歯をあててみれば、やわらかく塩気のきいた味わいが広がる。

しかしだ。最大の問題は次にあった。
やわらかい肉を噛んだ瞬間、中からあふれ出る異臭とやわらかさ。
やべぇ、これは痛んでる肉だ!としか思えないのだ。


あぁ、王子でも王女でもない、俺はなんというモンスターを作り出してしまったのか…。


著:戦車




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