これは後輩から聞いた話だ。


その後輩は以前、PCショップでアルバイトをしていた。
当時はまだNECと富士通が国内覇権を争うウィンドウズ黎明期というべき時代。

とはいえ既にハードウェアの形態は現在のものとほぼ変わらない姿をもっていたのだが、この時代の周辺機器は相性などの厄介な問題もはらんでいたのだ。しかしそれはまた別の話である。



ある日、その店に一人の客がやってきた。若い男性客だ。
こういうショップではメインの客層といってもいい。逆説的に言えば、目立たない客とも言える。

その客はPC本体を購入に来たらしく、ざっと店員の説明を聞いた後にNEC製のPCを決定した。
PC本体を購入すれば次は周辺機器である。
ハードディスクにMOに云々…とあれこれ注文する客。

しかし後輩はここで疑問を持つ。
客の選んだ周辺機器はどれも外付けタイプでPC背面の配線が非常に煩雑になる。
内蔵タイプならすっきり綺麗にまとまることが分かっているにも関わらず、この客はなぜか意図的に外付けタイプを選んでいるようなのだ。



「あの、お客様。周辺機器を内蔵タイプにされてはいかがですか?すっきりした配線になりますよ」

客にこう進言した後輩は驚愕の一言をこの後聞くことになる。


「いいんです!僕はPCの裏をサイバーにしたいんです!」


サ、サイバー!?
配線が込み合っている様を指してサイバーと形容するのか!?僕にはただごちゃごちゃしているだけにしか見えないがッ!!




…そうして、後に常連となるその客は密かに店員の間で「サイバーくん」と呼ばれる事になるのだが、無論お客本人は知る由もない。

世の中には色んな趣味の人物がいるものである。



著:戦車




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