俺がかつて岡山市内で学生だった頃。

自炊もしていたのだが、それにも増して外へメシを仲間と食べに出る事を好んでいた。

もちろんまっとうな収入があるわけではない学生の身分だから値段の張るうまいものが食えるわけではない。
おまけに若い男ばかりだから洒落た料理より実を取る。量と味が店を選ぶ上での重要なファクターになる。

綺麗な店より薄汚れた店、つんと澄ました美人ウェイトレスよりオマケつけてくれる気前のいいおばちゃんという理論である。
(その理論で何度も失敗しているのだが、それはまた。)


そんな若い野郎共の飢えた胃袋を激しく満たしてくれる行きつけの定食屋があった。
市内の古い商店街である奉還町に店を構える「くろかわ」「あんせい」「はぎわら」である。
この3つの定食屋が奉還町北辺のゴールデントライアングルを形成し、食事時ともなればそれぞれの店の前に自転車が列を成す、といった風情であった。



くろかわは典型的な定食屋である。
おやじさんとおばちゃんの二人で切り盛りしているらしい。ちょっと小ぶりな店構えで席数もそう多くない。

だがこの店の人気は極めて高い。
その理由はなんといっても価格の安さ、膨大な量、どんなメニューにも必ず付属する味噌汁と2分の1にカットされたバナナに起因するところが大きいだろう。カレーにも付属するという徹底振りなのだ。(そういえば給食に付属していたバナナにシールが付いていると嬉しかったことをふと思い出したがこれは全く本筋に関わりのないことである。)

本当にどんぶりにてんこ盛りにされた飯を見たのはくろかわが最初だった。まるで日本むかしばなしのアニメーションに登場するアレである。

ここでよく注文したのが若鶏定食である。いわゆるから揚げ定食の事だ。もちろんバナナと味噌汁も付属。からし醤油でいただくやわらかな若鶏のから揚げがどんぶり飯を加速させる。
そういえば友人の一人はよくしょうが焼き定食を好んで注文していた。これまたてんこ盛りにされた千切りキャベツにしょうが焼きのタレが程よく絡んで、丁度豚肉を食いきる頃にしんなりとしたキャベツを口に出来るのが魅力だそうである。

くろかわの攻撃的な量というのは、もはや常識的レベルを凌駕したものであった。もたもた食っていると満腹感を食事中に感じてしまうので、掻ッ込むしか手はない。
さすがの我々も充分にコンディションを整えてからでないと完食は厳しいほどだった。時にはバナナは現場で食いきれずに持ち帰る事もあったくらいである。


俺が通った当時で、ほとんどのメニューが500円だったと記憶している。
(後に行った時僅かに値上げされていたが、それでも良心的な価格だったと思う。)

女子供だけでは到底入店すら躊躇する、まさに男の店である。


残りの2軒はまた後日。


学生街の定食屋#2に続く



著:戦車




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