先日の事である。

ある後輩が三重県鈴鹿市にある鈴鹿サーキットのイベントに行ったそうだ。
一種のお祭りみたいなイベントで、実際にレーシングカーでレースというわけではなかった。
かつてのF1やGTカーがデモ走行したり、一般のランボルギーニオーナーがパレード走行したりピットウォークがあったりという華やかなイベントだったらしい。
サーキットや道中の様子を撮影した画像やムービーを見つつひとしきり話に花が咲く。


で。

「これお土産です」
と、渡されたものは横幅16cm、縦は26.5cm、高さが4cmという箱だった。
手にしたその箱からは、ある程度湿度を保った物質が持つ重量と質量を予感させるに充分な手ごたえがある。

我が経験から察するに、これはおそらく饅頭だろう。クッキーやせんべいではない。


鈴鹿土産ということもある。冗談で口にしてみた。
「これF1饅頭じゃないの?」

「え、なんで分かったんですか!?」


実在するのか!?
思わぬ展開に驚きを隠せない俺。

震える手で包装紙を破ると、そこには



フォーミュラ饅頭



確実に箱に書かれている。疑う余地もない。アスファルトをイメージした黒い箱に白いイタリックフォントで確実に書かれているのだ。
ご丁寧に「Formula Manju」とまで明記されている。これなら日本語の読めない外国のお客様も誤読することはない。

しかも箱絵が特徴的なのだ。
俯瞰したスターティンググリッドに整然と並ぶ色とりどりなフォーミュラマシン。その中に一台だけ確実に実写である饅頭が紛れ込んでいる。位置的に言うと4番グリッドだ。艶やかなそのボディはまるで卵を塗って焼き上げられたかのようである。
その饅頭の形も一応の体裁としてレースカーの様相を取り入れてはいるのだが、どちらが前か後ろか判断に苦しむ。

そして駄目押しに「十二台参戦」。つまり12個入りなのだ。徹底している。



こんな土産物、余所で見かけることは確実にありえない。


だが驚愕のパッケージに対して中身はスタンダードな白餡の饅頭だった。
普通にうまかった。



しかし通常の饅頭をこうやって売るというのは、洒落心溢れるセンスか切羽詰った末の暴挙なのか。

我々に知る術はない。
おもしろいからいいけど。



著:戦車




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