さて、前回は超絶的な量の定食を提供してくれる「くろかわ」を紹介した。
こういったボリュームで勝負!的なノリの店が何件かあるのが学生街の特徴と言える。

そういった店の中でも異色なのが「あんせい」である。
あんせいは、昼間はうどん屋、夜は中華料理屋という変り種なのだ。

この店、質・量・価格のどれをとっても素晴らしいのである。

昼間のうどん屋は、やや柔らかめなうどん(手打ちと思われる)に透明感あるダシ、そして豊富なトッピングが魅力だ。
しかし敢えてここで注文したいのが、てんぷらうどんである。
スタンダードな海老天+うどんの筈なのだが、そのでかいどんぶり全面に広がる衣の海を目の当たりにしたとき(これは果たして食いきれるのだろうか…)と不安すら感じる。
だがあつあつのうまいうどんでそんな杞憂は軽く吹っ飛んでしまう。
汗をかきつつすすり込めば、完璧な満足感が得られること請け合いである。
ただし、食後の胸焼けは必至だ。


そして夜の部である中華料理屋。こちらも半端な量では済まされない。
メニューは一般的なもので、安心感が高い。

注文を入れる際に注意したいのが、人数分とイコールの注文を入れないという事だ。3人で行く場合ならおかずは2品。4人なら3品という具合である。
1人や2人であんせいの席に着くのはもはや暴挙としか言い様があるまい。(2人で1品という注文は拒否しますという注意書きがある)

注文が通ると、しばらくしてやってくるのが巨大などんぶりになみなみと注がれた野菜スープだ。
これは突き出し的な意味合いのものだと理解すればいいだろうか。これにメシがあればもう充分な量と味があるのだが、これは勿論前哨戦だ。

そのスープを平らげると、ようやく注文した品物が登場する。からあげや八宝菜等を良く食べていたのだが、これらもやはり尋常ではない量なのだ。複数人数で競争意識を持ちつつ食うのが良いだろう。
なお、八宝菜と酢豚を一緒に注文するなどという無茶をすると、似たような材料で似たような味付けの料理、しかも凄い量のものが2品という事になってしまうので充分に計画を寝ることが重要だ。
これらのおかずを、どんぶりメシかっこみつつ摂取すれば「うまい」と呟く事すら忘れて箸が進むわけである。

(近年の情報によると夜の営業は行っていない可能性もあり、注意が必要だ)


そして最後に控えているのが「はぎわら」である。
ここは今回紹介した3軒の中でも、比較的女性でも入ることが可能な部類の店だと言えるだろう。
店の外観もごく普通の街の定食屋さんといった風情である。

だが、この店もやはり只者ではない。
巨大なチキンカツやピカタを目にすれば、やはり飢えた男たちが集う鉄火場だと容易に窺えるのだ。

ここで有名なのは、前述したチキンカツ、そしてカツ丼だろう。
特にカツ丼は見事の一言に尽きる。
程よく炊き上げられた白い飯の上に分厚いカツが惜しげもなく並べられ、とろとろになった半熟卵とネギがトップを飾る。少し濃い目の甘辛ダレの香りが締まりきらない程になった蓋の隙間から流れてくればもうあなたは割り箸を割らずにはいられない筈だ。

万人に奨められないがマニアックなうまさが一部で評判のカレーも侮りがたい。深く濃い色に煮詰まった感のあるルウなのだが、どこか心を惹きつける味わいなのだ。
汁物類もかなりのもので、味噌汁などはブツリとしっかりした歯ごたえがうれしい磯の香り漂う生わかめが使われていたりするし、肉スープもこれでもかっ!というくらい具沢山である。



どの店も、いわゆる高級店ではないし、店もお洒落ではありえない。
だが今でもあの味、盛り付けが心を惹くのだ。味を言うならもっとうまい店もあるのだが、それでもこういう親しみやすくてどこか懐かしさのある定食屋を、俺は愛して止まないのである。



著:戦車




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