夏の連休に帰省した友人達と、今年も恒例行事となった香川県へのうどん食べ歩きツアーを決行した。

前日の夜に打ち合わせという無計画かつ突発的な話し合いの末、今回のテーマは「有名店を巡る」ということになった。
星の数ほどあるといわれる香川のうどん店だが(うそ)、その中で強烈な存在感を放つ有名店がいくつか存在する。

その代表的な有名店のひとつである「山越」を押さえるというのをメインイベントとし、前回のうどんツアーで素晴らしく好感触だった三島製麺所をおさえ、なおかつノリで新規店をを開拓しようという試みである。
マツザカが投げ、イチローが打ち、ハニカミ王子がはにかむといった例えにするとわかりやすいかもしれない。

ということでいい加減にプランはまとまり、出発の運びとなった。


朝7時に地元を出発した我々は途中で2名の友人をピックアップする予定だったのだが、なぜかあと一人来ない。
前夜に電話連絡したはずなのだが待ち合わせのポイントに現れないのだ。電話してみると「あれ、昨日連絡してくれるんじゃなかったの?」というではないか。
とりあえず「そうか今回はすまないが」と言うことでその友人1名は今回見送ってもらう。しかしおかしいな、昨日の夜電話して会話したはずなのだが…。

微妙に暗雲を感じつつ、高速道路で一路香川県を目指す。
今回使用した自動車であるトヨタプリウス(友人所有)であるが、現代のクルマなのでご多分に漏れずカーナビゲーションシステムが搭載されている。
これにうどん巡礼の聖典である「恐るべきさぬきうどん」掲載の電話番号なんかで検索してやると、非常に分かりやすく、楽に目的に到達できる。
当たり前といえば当たり前だが、不慣れな知らない土地を見知らぬ店を探してうろうろすることの心細さから解放されるというのは非常に大きなことなのだ。

午前9時30分。
我々一行を乗せたプリウスは開店後30分を経過した山越うどん(綾歌郡綾川町)の前に到着していた。

が。
既に店の前には長蛇の列が見える。
店の近辺に配置された巨大な駐車場には県外ナンバーのクルマ、それを誘導する警備員が赤いビームサーベルを振り回していて活気に溢れているのがうかがえるのだが、それすら悲しい心のフィルターを通して見るとモノクロームの光景なのだ。

あぁ、我々は今回もまた敗北を喫したのである。
それもいきなり。初戦敗退である。かまたまの聖地とまで謳われる山越のかまたまを一度喰って見たかったなジョン、クニのオフクロに伝えてく…がふっ(吐血
我々が香川で喰ううどんは、涙の塩味がするのだ…。


だがこれしきで屈するほど若くは無い。
素早く次のターゲットを移動しつつ絞る。ここから近くて有名店というのがテーマに沿っていると言えるのだ。

どうやら我々と似たような状況のグループも結構いるらしく、県外プレートのクルマが路肩などで停まってガイドブック片手のドライバーが途方に暮れた表情を見せるなんて光景も結構あった。
やたらに人の入っている喫茶店が何件も見える。そこにも県外プレートのクルマが溢れているようだ。

…あれはおそらく有名店を目指して来たのはいいがあまりの状況に店に入れず、かといって路上で呆然とするのもといった人々がとりあえずと入っているのではないかという推論が我々の間で立った。
つまり「敗者の喫茶店」なのだ。喫茶店にだけは入るまいと固く心に誓い、次の店を選ぶ。


「松岡」と言う店が候補に挙がった。同じ町内(綾川町)である上に、著名なうどん店である「宮武」の関連店であるという情報もある。今回のテーマにふさわしい店ではないか。
ナビゲーションシステムに電話番号を素早く入力し、プリウスを走らせる。

無事店の前に到着すると、駐車場には若干の余裕がある。
クルマを駐車場に突っ込み店内に突入すると、幾人かの先客があった。するどい眼差しで見回すとバットに盛られたてんぷら数種類がうまそうだ。
俺は暖かいかけうどんにげそ天を、他の友人達は冷たいぶっかけにちくわ天というチョイスだ。

さすがに香川は基礎レベルが高い。ぶつりと歯切れのいいうどんはほのかな透明感があり、滑らかな喉越しもある。
しかし暖かいかけにすると微妙にコシの部分に欠ける気もしたのが正直なところではあった。
(後で冷たいぶっかけにした友人に聞くと、冷たいヤツはなかなか高レベルのうどんだったそうな。やはり冷水で締めた麺のほうが優位なのだろうか)

店にいた時間はおそらく5分もなかっただろう。
我々はそのうどんを食い終わると代金を渡して素早く退散。うどん店で長居するのはダンディズムに反するのだ。


香川うどんの旅08夏その2に続く



著:戦車




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