前回までのあらすじ

山越うどんに続き、宮武制覇にも敗北を喫した我々は途方に暮れていた。
有名店を制覇するという今回の目的をことごとく打ち砕かれたのだが、その時はまだ午前10時30分あたりで逆転のチャンスは残されている。
現在地から近い有名店を探すと「なかむら」と言う店があるということで、我々は一縷の望みを託して男涙の一点賭けに打って出た。



トヨタプリウスのナビゲーションシステムを設定すると早速クルマを走らせる。
目的地は丸亀市飯山町だ。細い道をひた走ると川沿いの道に出てきた。
土器川というその一級河川は、香川の川らしく既にすっかり水量を下げてしまっていて河川中央部にほんの小川程度の流れしか見えない。
橋の付近などでは夏らしくバーベキューをやっている人たちもいたのだが、まったくもって涼しさを感じない光景である。

聖典「恐るべきさぬきうどん」に従い、目印である製材所を発見。
「お、なんかクルマが並んでるじゃないか。あれは製材所に行列が出来ているんだな。このお盆でも営業してこんなに繁盛してる製材所はえらいなぁ。警備員まで出てるじゃないか。県外プレートのお客がたくさんだぞ。」

…と、ボケをかますまでもなく長蛇のクルマの列が向かう先は名店「なかむら」だ。
あぁ、この頬を伝う熱いものはなんだ。これは心の汗だ。汗なんだ。泣いてなんかないやい。ちくしょうちくしょう。


見事なまでの3連敗。二度あることは三度あると仏様もおっしゃっていたではないか。
せっかく早起きして出発したのが全く台無しである。台無し〜。

ここに来てようやく我々は反省した。
テーマを外れるが有名店を狙うから問題なのだ。有名店を狙うなら一軒だけを開店前から並ぶつもりで行かなければならない。なんなら前日の夜から並ぶくらいの気合が必要なんだ多分。
ちょっと壊れ気味になりつつ、幹線道路から近くのゲームセンターに停車して今一度店をチョイスする。

有名店ではなく、かといってあまりにマイナーでないところ。そういう目で見て判断すると「T」という店が候補に挙がった。ラーメン屋みたいな店名だがうどん店である。イニシャルだけじゃわかんないか。
場所は綾歌郡宇多津町。プリウスを走らせる。

ナビに従って進行するも、ややわかりづらい場所に店があったようで行き過ぎてしまったがどうにか到着。
駐車場は普通車が4台程度停められるようだが、いっぱいであった。せっかくここまで来て食えないのはあまりにも悲しいのでしばし駐車場付近で待つ。
やがて駐車場から一台出て行ってスペースを確保。店に向かう。

店構えは非常に特徴的だ。民家の納屋とから庭にかけてビニールシートで屋根を作り、その中で販売と提供を行っているらしい。大きなテーブルが2つと丸椅子がいくつか。
そばかりんとうなんてものも売っているようだ。とりあえずそれぞれ冷たい一玉を注文し、俺はかきあげ、他の同行者はなす、かぼちゃなどの天ぷらをのっける。
出汁は既に冷やされているもの、温められているものを好みで丼に注ぐようだ。冷たい出汁を投入して早速いただく。

…読者の皆さんは天ぷらというとどういうイメージをお持ちだろう。
お店でいただくあのかりっとした軽い衣だろうか。それともご家庭で揚げた、すこしぽってりした衣の質実剛健感だろうか。
ここの天ぷらはそのどちらとも違う。

固いのである。
かりっでもなければ、しなっでもない。
擬音で表現するなら「ぼきっ」もしくは「ばきっ」といったところだろう。
出汁に浸してもほとびることもない。出汁も吸わない。ぎんぎんに固いのだ。日清どん兵衛の天ぷらを紙だとするなら、こちらのは鉄だと言っても過言ではなかろう。外観も見るからにハードタイプな褐色である。小麦色の肌の美女なら身を任せてしまいたいがこれはいけない。

そして出汁が塩辛い。今までのさぬきうどんの印象を覆すほどの塩辛さ。夏場で体内から排出される塩分を補給するにもここまではいらない。
あたりを見れば、出汁を捨てるバケツが用意されているではないか。最初から出汁を捨てる事を考慮してある味付けなのか。

どうやら俺の好みではない店のようだ。
素早く麺を引き上げて食い、せっかくなのでかきあげも残すわけにいかず完食。残った出汁はバケツへ。
友人達も同じくらいで完食したようで、駐車場に置いたクルマに戻るとそれぞれ口にした言葉が「だめだ」であった。なすもかぼちゃも撃沈だそうな。

完全に午前中を敗北感で一杯にしてしまった我々に逆転のチャンスはあるのか。
あてもなくさまよう我々の眼にとまった看板を頼りに、気分を変えるためある場所に向かう。

それはまさに大人の社交場であった…。


香川うどんの旅08夏その4に続く



著:戦車




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