■ 何無驚譚 ■
何ひとつ驚きのない物語
安口魚
「 ほぉぁふ まだねみぃわ 」
「 そがぁに大口あけて 鮟鱇(あんごう)か 」
「 鮟鱇 言やぁ安口魚(あんこうお) 卵生みょぅちゃった 」
「 どこの山なぁ 今度見に行かぁ へぇでどねぇ結びつくんな 」
「 鮟鱇言ぅなぁ 安口魚の昔の言い方 ほんで安口魚みちょぉに ぼけぇしょうたら言われらぁ 」
「 誰が安口魚なぁ て悪口なんか そねぇ腹立たなぁが 」
「 お前(めぇ)みちょなもんと一緒にされたぁ 安口魚怒れてくらぁ 」
「 おどりゃぁ 」
----- 高梁 12月 [高梁版]
安口魚
「 ほぉぁふ まだ眠い 」
「 そない大口あけて 鮟鱇(あんごう)か 」
「 鮟鱇いやぁ 山椒魚 卵生んどったわ 」
「 どこの山やの 今度見ぃいくわ せぇが何やっちゅう話や 」
「 鮟鱇言うなぁ山椒魚の昔の言い方 山椒魚みとぉに大口あけとったら言われるわ 」
「 誰が山椒魚やねん て悪口っちゃぁ悪口なんか そない腹も立てへんわ 」
「 お前みたいなもんと一緒されたぁ 山椒魚の方が怒ってきますわ 」
「 何でやねん 」
----- [関西版]
[おうちのかたへ]
鮟鱇(あんごう/あんこう)
鮟鱇(あんごう)は山椒魚の地方名で、古くは全国的な名前だったのかも知れません。
大きな口が似ている、深い海にすむ魚に名前をとられて、押し出されてしまいました。
悪口表現
その鮟鱇(あんごう)はある地域の、阿呆馬鹿表現でもあります。
ぽかんと大口をあけた様を山椒魚になぞらえた、生き物由来の珍しい柔らかな悪口です。
山椒の魚
さんしょう魚なのか、さんしょ魚なのか、そもそも正しい名前とは何でしょう。
鮟鱇(あんごう)の多く住む地域でも、それを関東式にさんしょう魚と呼ばせるべきでしょうか。
近年の呼び名「はんざき」が、よりふさわしいと思うのですが。
安口魚(あんこうお)
鮟鱇の半分とって安康魚(あんこううお)、大きな口からとって安口魚(あんこううお)。
話し言葉による変化を経て(あんこうお)、作中ではそう呼ばれる架空の名前。
使われなくなりつつある、その地域での名前たち。それはいつ誰が呼びはじめたのでしょう。
「高梁往来」表紙