■ 何無驚譚 ■
何ひとつ驚きのない物語
でぇでぇとびょぅた
さみぃ時分な 草ぁ抜きょぅた
花の前(めぇ)に抜きゃぁ 生(へぇ)て来(こ)まぁで
ほいだら 背なから音しょぅた ひっひっ くゎっくゎっ
向きゃあ音せんよぅなって 橙(でぇでぇ)放(ほ)かした皮の あるばぁじゃ
何じゃおかしぃ事ありょうもんじゃ
へぇでもっぺん よぅ見たら 放(ほ)ってぇた皮 丸ぅになって こっち見(みょ)ぅた
構わんと抜きょぅてな ここしょったら そけぇおって あっこしょったら あっけぇおってじゃった
ひょんなげなこともあるもんじゃ いぅて長し見きょうたら 首傾(かし)げ橙(でぇでぇ)飛んでいっちゃった
あぁ ありゃぁ火鳴(ひたき)
寒ぅになったら橙なってぶら下がる あったこぉになったけぇ 飛びでぇた
----- 高梁 3月 2009.4.19 [高梁版]
だいだいとんだ
寒い頃に草取りをしていた
花の前に抜けば これ以上生えてこないだろうと
そうすると 後ろで音がする ひっひっ くゎっくゎっ
振り向くと音は止んで 蜜柑の皮のあるばかり
なんとおかしなこともあるものだ
それでもう一度 よく見ると 捨ててある皮が丸くなって こっちを見ていた
かまわず草取りを続けると ここしてたら そこにいて あっちしてたら あっちへいらっしゃった
変わった事もあるもんだと 長く見てみたら 首傾けて蜜柑飛んで行きました
あぁ あれは火炊(ひたき)
寒くなったら蜜柑になってぶら下がる 暖かくなったから 飛び出した
----- [全国版]
[おうちのかたへ]
蜜柑の皮
葱などの根元に蜜柑の皮を撒いておくと、連作による根腐れを多少防ぐ気がするとの事です。
畑に蜜柑の皮が広がる頃に、この鳥は渡ってきます。
ひたき
寒い時期から草取りしていると、3月最初に聞こえてきたのが鶲(ひたき)の声です。
火打石を叩き合わせる音になぞらえ火炊きと呼ばれ、鳴くのは雄で橙色のお腹をしています。
人なつっこいひたきは、背中のすぐそばまで寄って来るのです。
もしかして好かれているのかもしれません。
「高梁往来」表紙