■ 何無驚譚 ■
何ひとつ驚きのない物語
兎きょぉてぇ
「 昨日も天井どたどた 鼠やかましぃてかなわなぁ 」
「 そん昔な 鼠に難儀しょうた家あって 」
「 せぇでどがんした 」
「 ぎょうさん雪降ったけぇ雪達磨こさえちゃった 」
「 可愛(かわゆ)らしゅぅに 」
「 へぁがな こねぇ釣り上がった眼して大けぃ口開けて 長ぇ耳と手ちぃとった 」
「 きょぉてぇ兎 」
「 したぁその晩方から7日に8匹 鼠が家から出て行っちゃった 」
「 そがぁ効くなぁ わしもこさよぉか でそりゃぁ いつ頃の話じゃろぉか 」
「 こねぇだ2月 」
「 でぇれぇ新しい話じゃの まぁえぇわ 次降りゃぁやってみらぁ 」
「 せぇがえぇ たまにゃぁ効かぁで 」
----- 高梁 2月 [高梁版]
兎おとろし
「 昨日も天井どたどた 鼠やかましゅうてかなんわ 」
「 その昔な 鼠に困っとった家あってな 」
「 ほんでどないした 」
「 ようけ雪降ったいうて 雪達磨こしらえた 」
「 可愛らしいこっちゃ 」
「 せぇがな こない釣つり上がった眼ぇして大きぃ口開けてて 長ぁげぇ耳と手ちぃとった 」
「 ほんまおとろしい兎や 」
「 ほしたぁその晩から7日で8匹 鼠が家から出てったいうで 」
「 そない効くんやったらわしも作ってみよか ほんでせぇは いつぐれぇの話やろ 」
「 こないだ2月 」
「 またえろぅ最近の話やないか まあえぇ 次降ったらやってみるわ 」
「 せぇがえぇ たまにゃ効くんちゃう 」
----- [関西版]
[おうちのかたへ]
史実
あまり雪の積もらない町に、雪の積もった冬のある一日。
恐い顔したウサギの雪だるまを作ったら鼠が、その夜から7日で8匹かごにかかってその後いなくなった。
この出来事から、作った人は鼠や干支に困っている時に効くと、兎様の効能を信じている。
始まりの昔話
昔話や言い伝えや神話、お話はいつかどこかで生まれた。
元の小さなきっかけの出来事に尾ひれが付いたり、勘違い、聞き違い、訳し間違い。
たくさんのお話が生まれ、たくさんのお話が消えてゆく。
生まれのお話
お話は、お話を作る人の仕事だろうか。お話は当たり前に生まれ消えてゆくの。
ささやかな出来事をすくいとり、民間伝承の原型を生み出せないかという物語。
「高梁往来」表紙