■ 何無驚譚 ■
何ひとつ驚きのない物語
蒲公英
「 咲き出(でぇ)た 」
「 ほじゃなぁ 」
「 綺麗(ちれぇ)なぁ 」
「 じゃ 珍しゅうもねぇけどな 」
「 一頃 黄ぃな色ばぁじゃったって ゆぅとったぁ 」
「 んな鮟鱇(あんごう)な事ぁ 聞いたこともなぇ 」
「 車の車輪(こま)に種ちぃて来ょって 知らん間広がってん 」
「 今そねぇに見ゃぁせまぁが 」
「 前(めぇ)にな 黄ぃな奴おかしぃいうて 抜き出(でぇ)た奴おって 」
「 ほんで 」
「 毎年(めぇとし)抜きょうたら 御覧の通り 」
「 へぇでなんか ふつうな白で えぇ 」
「 じゃ 」
----- 高梁 3月 [高梁版]
蒲公英
「 咲き出した 」
「 そうですね 」
「 綺麗だな 」
「 そうですね 珍しくもありませんが 」
「 一頃 黄色い色ばかりと聞きました 」
「 そのような莫迦な事 聞いた事もありません 」
「 車の車輪に種が付いて来て 知らぬ間に広がったと言う事です 」
「 今はそれほど見かけませぬが 」
「 前に 黄色の花はあり得ないと言うて 抜き出した者がおりまして 」
「 どうなさいました 」
「 毎年抜きましたら 御覧の通り 」
「 左様で御座いますか 普通な白い花が良ござんしょ 」
「 違ぇねぇ 」
----- [全国版]
[おうちのかたへ]
咲き始めの頃のたわいのない話題。
白花が主流のこの西日本で、一時黄色ばかりになっていたらしいと。
それから黄色の花をを抜き出した者がいて、
何年かした今では一面の白花、普通が何よりとの事。
「高梁往来」表紙